『関心領域』は、アメリカ・イギリス・ポーランドが共同製作した歴史映画。
第96回アカデミー賞では5部門にノミネートされ、見事「国際長編映画賞」と「音響賞」を受賞しました。
映画のラストシーンはどういう意味だったんだろう?
あらすじだけでも怖そうな映画でしたが、鑑賞後にラストシーンの意味を考えたとき、一家の大黒柱ヘスの姿が自分と重なりゾッとしました。
今回はホラー映画よりも怖い、『関心領域』のラストシーンの意味について、ネタバレありで考察いたします。
以下は映画『関心領域』の内容に関するネタバレを含みます。
映画を鑑賞してからお読みください。
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『関心領域』ネタバレ考察!ラストシーンまでのあらすじ
『関心領域』は、アウシュヴィッツ強制収容所の隣で幸せに暮らすルドルフ・ヘス一家の物語。
ヘス婦人は「ステキな旦那さんと自然に溢れた家で暮らす」夢を叶え、インテリアと家庭菜園に力を入れています。
隣にはアウシュヴィッツ強制収容所。
1年365日ホロコーストがおこなわれており、何気ない日常風景の隣からはモクモクと煙が立ち込め、その灰が花の肥料として撒かれています。
ヘス婦人は銃声や悲鳴が全く気にならないようですが、子どもたちは暴力的な一面が見えたり、赤ちゃんが全然泣き止まなかったりするなど、PTSDが表れていると考察できます。
いくら裕福でも子育てに悪影響!
旦那さんのルドルフ・ヘスがアウシュヴィッツから異動になる際も、ヘス婦人は「私はここで子育てするからあなただけ引っ越して」と単身赴任を提案。
ヘス婦人の関心領域は「家と庭」であり、銃声・悲鳴・泣き声には無関心、というのがラストまでの大まかなあらすじです。
線路の近くに住んでいるくらいのテンションで、悲惨な景色や音が日常と化している描写が怖かった…。
【ネタバレ考察】『関心領域』知ると怖いラストシーンの意味
『関心領域』のラストでは、ルドルフ・ヘスが急に吐き気に襲われます。
どうしたのだろうと思った瞬間、映像が転換。
淡々と展示物を拭き上げるスタッフの姿が映し出され、掃除機をかける音が鳴り響きます。
ここは「アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館」、現在のアウシュヴィッツです。
今まで陰と陽の対比でホロコーストの常態化を表していましたが、ラストシーンにおいても悲惨さが残る展示と淡々と掃除をするスタッフを対比させ、恐怖を増幅させています。
このシーンは「お前たちも普段は無関心だろ」という意味なのかなと考察しています。
『関心領域』ラストで場面を現代から戻した意味をネタバレ考察
『関心領域』のさらに怖いところは、視聴者に「お前のことだ」という意味のメッセージを投げかけたうえに、最後の最後にルドルフ・ヘスのシーンに戻すことです。
最後のシーンはホラー映画を観たとき以上の怖さ…!
なぜラストシーンは怖いのか、2つの理由を考察しながら説明いたします。
怖い理由1:ヘスはお前だと言われたような気がしたから
ホロコーストは残虐なこと
これは誰もが理解していることですが、私も含めみな、実際は淡々と掃除をするスタッフのようになっていませんか?
今、世界では戦争が起きていますが、日本に住んでいるとその悲惨さがわからず、自らニュースを調べない限り無関心になってしまう。
少し身近な話にすると、ウイグル族の問題を理解していながら、海外通販で安い洋服を買ってしまう。
もっと身近な話にすると、物流2024年問題がありながら、気軽にネットショッピングを利用してしまう。
自分が豊かになるために、犠牲を払っている人がいる。
豊かな暮らしの裏では、生きるのに精一杯の人がいる。
日本で豊かに暮らしている自分が、ホロコーストの功績(あえて称賛する言葉を使わせていただきます)によって昇進したルドルフ・ヘスに重なり、恐怖を感じました。
現代のシーンから戻り、最後にヘスと目が合ったのがとてつもなく怖かった…。
怖い理由:ナチス軍が現代の会社のように見えたから
あなたはどのようなとき、『関心領域』のヘスのように気持ち悪くなりますか?
病気のとき、飲みすぎたとき、緊張したとき…。
さまざまな理由がありますが、ルドルフ・ヘスの吐き気の原因はどれでもありません。
『関心領域』のラストシーンの直前で、ヘスは健康診断を受けており、とくに問題を指摘されていなかったので、健康だったと考察できます。
またラストシーンの前に吐くほどお酒は飲んでいなかったし、会議も終わっていたので緊張もしていません。
残る吐き気の原因、それは「会社へのストレス」です。
ルドルフ・ヘスの職場はナチス軍になりますが、その描写はまるで現代の会社のよう。
- 昇進話があれば家族と相談し、妻が引っ越しを拒めば単身赴任するヘス
- 椅子が並んだ会議室で、資料を広げながら上役へプレゼンするヘス
- ナチスへの忠誠を誓うヘス
『関心領域』は、徹底して現代社会にも通じる職場環境を描いていると考察できます。
これは家のシーンもそう!
セントラルヒーティングは未だに日本にはありませんが、ファッションや電話などを除けば現代っぽく描かれています。
あなたも職場(または学校)のストレスで、なんだか気持ち悪くなったことはありませんか?
もちろん会社や学校のストレスも、人によっては命に関わることだと思います。
しかし『関心領域』のルドルフ・ヘスの場合、最後にケロッとした顔をして階段を下っていきます。
残虐行為が、日常のちょっとしたストレスとして描かれていることに恐怖を感じました。
※この記事を書くにあたり「ケロリとした顔」の意味を調べたらさらに怖くなったので、最後に類語辞典の引用を載せておきます。
「ケロリとした顔」の言い換え・類義語
weblio類語辞典より引用
物事に無関係であるかのように感情を出さない表情のこと
原作小説発売中
関心領域のリンゴの少女についての考察は、「実話だった!『関心領域』リンゴを置く少女の演出をネタバレありで考察 」をご覧ください。
『関心領域』ラストシーンのネタバレ考察まとめ
『関心領域』のヘス一家は、庭で養蜂した蜂蜜を食べ、文字通り甘い蜜を吸う生活をしています。
しかしその蜂蜜のもととなる花の肥料は、ホロコーストによる灰。
自分に関係のあることなのに、無関心が故にすました顔をしてしまう。
『関心領域』を観たら、もうケロリとした顔はできません。
他人事ではなく自分事として、関心を持つことから始めたい。
これをきっかけに、原作小説も読んで知見を深めたいです。