熱狂的なファンが生まれ、社会現象になった『ジョーカー』の公開から5年。
続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、前作から一転して「面白くない」と賛否両論が巻き起こっています。
筆者は社会情勢を踏まえたうえで、ここまで描いたことを称賛したいです。
悪のカリスマとして崇拝されたジョーカーは、なぜ一転して批判の対象となったのか。
その原因は、前作が生んだ2つの誤解があるから。
この記事は映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(以下『ジョーカー2』)について、ネタバレありで考察いたします。
以下は『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のネタバレを含みます。
映画を鑑賞してからお読みください。
【ネタバレ考察】映画『ジョーカー2』は面白くない?賛否両論なあらすじ
アーカム州立病院に収容された主人公アーサー・フレック(演:ホアキン・フェニックス)は、5人の殺害容疑で裁判にかけられます。
裁判の争点は、責任能力の有無。
死刑を求刑する検事のハービー・デントに対し、弁護側は一連の事件は二重人格に起因するとし、責任能力がないと主張します。
裁判が始まる直前、アーサーは病院の音楽セラピーに参加するハーレイ・“リー”・クインゼル(演:レディ・ガガ)に出会います。
リーはジョーカーに心酔する熱狂的ファン。
二人はまたたく間に恋に落ち、アーサーは裁判そっちのけで傍聴席にいるリーのことが気になっています。
しかし前作『ジョーカー』に登場した道化師ゲイリーや隣人ソフィーが証言台に立つと、アーサーの孤独で悲しい生い立ちが表面化。
ジョーカーの格好をしても、心は繊細なままのアーサーが随所に見受けられます。
その結果もう一人の自分であるジョーカーを背負いきれなくなり、母を含めた6人の殺害を自白。
ジョーカーを崇拝していたリーは、繊細で心優しいアーサーには興味がなく、別れを告げ去っていきます。
病院に戻ったアーサーは、話しかけられた囚人に突然腹部を刺され、人生も映画も幕を閉じるのでした。
映画『ジョーカー2』は面白くない?賛否両論が起きた理由をネタバレ考察
映画『ジョーカー2』は、なぜ「面白くない」と賛否両論が起きてしまったのか。
その原因は前作からの流れで、観客に2つの誤解を植え付けてしまったからだ考察します。
観客の誤解1:『ジョーカー2』をミュージカル映画だと思った
『ジョーカー2』を否定する口コミとして、ミュージカルシーンがつまらないとの意見が見受けられます。
面白くないララランド
フィルマークスより引用
大した盛り上がりもなく終わった
これは確かに炎上するわ、続編として期待していたものではない
やっぱり期待しすぎてしまった
フィルマークスより引用
わしはミュージカル映画見に来たんと違う
何にも情報入れずに観に行ったから歌いすぎてイライラしちゃった
前作『ジョーカー』が主人公に共感できるストーリーなこともあり、リアリティのない音楽劇に感情移入できなかったのだと思われます。
しかし『ジョーカー2』は、ミュージカル映画ではありません。
これは撮影監督のローレンス・シャーも語っています。
正確に言えば、続編はミュージカルではないよ。
シネマトゥデイより引用
音楽が含まれているという、それだけだ。
音楽は映画と登場人物たちの一部ではあるけど、それをミュージカルと言えるのかはわからないな
このコメントのとおり『ジョーカー2』は素晴らしい歌声の一方、ド派手な演出はなく、盛り上がりにも欠け、ミュージカルといって良いか迷う印象。
ではなぜ中途半端なミュージカルになったのでしょうか?
『ジョーカー2』はアーサー目線の物語だから
『ジョーカー2』において歌は、“ジョーカーとリー“が奏でるラブソングです。
リーは語りかけるように歌い、次第にジョーカーも応え、二人で歌うシーンが増えていきます。
しかしその歌はどこかいびつな印象。
ミュージカルが好きな人は冗長な歌唱シーンに違和感を抱き、苦手な人は見れたもんじゃないという気持ちになったのではないでしょうか?
このいびつなミュージカルは、アーサーの心情を表していると考えられます。
ミュージカルは、登場人物の心情を歌と場面で表現します。
嬉しいときは空を飛び、悲しいときは雨が降り、同士が歌うことで一致団結して気持ちを鼓舞する。
しかし『ジョーカー2』はアーサー目線で物語が進むので、ジョーカーとして振る舞うことに無理が生じ、リーとの歌が中途半端になってしまうのです。
映画の終盤、前作『ジョーカー』にも登場した大階段で、リーは歌うことでジョーカーを求めますが、アーサーは歌い続けるリーを止めようとします。
もしこれがリーがアーサーに向けた歌であれば、大階段の先に花が咲き誇る教会があり、二人だけで結婚式を挙げる幸せなミュージカルが展開されたかもしれません。
二人の気持ちのズレが中途半端なミュージカルに込められている、悲しい演出だと感じました。
とはいえ「ガガ様の全力パフォーマンスが見たかった」という意見もわかる…
観客の誤解2:アーサーのことをジョーカーだと思っていた
『ジョーカー2』を否定する口コミとして、ジョーカーの活躍が見たかったとの意見も見受けられます。
あんなのジョーカーじゃないよ、、、
フィルマークスより引用
ジョーカーを模倣した誰か。
前「ジョーカー」というキャラクターに対する期待していたものが一つもなくて本当に残念。
フィルマークスより引用
妄想して笑うだけの凡人求めてないって
前作『ジョーカー』が好きな方は、今作でジョーカーのさらなる暗躍を期待していたかもしれません。
しかしジョーカーが活躍しないのは当然です。
なぜなら『ジョーカー』シリーズのジョーカーは映画内の市民と観客が勝手に作り上げた偶像で、悪のカリスマのジョーカーではないからです。
ブルース・ウェインと年齢が合わない
前作『ジョーカー』には、後にバットマンとなるブルース・ウェインが登場します。
その当時のブルースはまだ幼く、すでに成人しているアーサーとかなり年齢差があります。
バットマンのヴィランであるジョーカーが、ブルースがバットマンになる前から登場していることは、映画の公開当初から疑問視されていました。
この疑問は、今作『ジョーカー2』で解決します。
今作でジョーカーことアーサー・フレックは亡くなりましたが、ゴッサム・シティではジョーカーを求める声が収まりません。
アーサー・フレックはジョーカーのもととなった概念であり、サイコパスな人物によってジョーカーは受け継がれるのです。
『ジョーカー2』はジョーカー生誕の物語
『ジョーカー2』はアーサーの死とともに、真のジョーカーが生まれた物語でもあります。
映画の最後、アーサーは謎の囚人に腹部を刺されて倒れますが、この囚人こそが初代ジョーカーになり得る人物です。
囚人が初代ジョーカーになり得る理由は以下の2点。
- おそらく自分の口を切り裂いているから
- アーサーがマレーを撃ったときと同じセリフを言ったから
囚人がアーサーを刺したあと、カメラのピントはアーサーに合っているので不確実ではありますが、おそらく囚人は笑いながら自分の口を切り裂いています。
これは映画『ダークナイト』に登場するジョーカー(演:ヒース・レジャー)のオマージュです。
また囚人がアーサーを刺したときに「報いを受けろ」と言っていますが、これは前作『ジョーカー』にてジョーカーがマレーを撃ったときに言うセリフと同じです。
囚人がアーサーの腹部を刺していることからも、最後のシーンはアーサーの死とともにジョーカーの誕生を描いているように感じました。
【ネタバレ考察まとめ】『ジョーカー2』は面白くない?リーは期待しすぎた観客自身
『ジョーカー2』が面白くないといわれることは、制作陣も事前に気づいているはずです。
その理由は、リーはジョーカーに期待しすぎた観客を投影した人物であるから。
リーのように『ジョーカー』を5回(盛って20回)観た方も多いのでは…?
映画の最後でアーサーから立ち去ったリーと同じように、観客も心優しい繊細な男性には目を向けず、悪のカリスマの暗躍を期待しすぎたのです。
現実と妄想の区別がわからない前作『ジョーカー』と比べ、現実世界ではあり得ないミュージカルを取り入れた今作。
前作が悪い意味で社会を動かしてしまったことを踏まえ、「これはエンターテイメントだ。現実をしっかり生きろ」というメッセージを受け取りました。